浜納豆・寺納豆を一言でいうと
蒸した大豆に麹カビをつけ、塩水に何か月も漬けてから干した、黒くて塩からい豆です。日本の納豆には、ふつうの「糸引き納豆」と、この「塩辛納豆」の2つがあります。塩辛納豆は寺の台所で作られ、全国に広めたのも寺だったので「寺納豆」とも呼ばれます。静岡県浜松市のまわりで作られる物が浜納豆、京都の大徳寺で作られる物が大徳寺納豆です。
| どこで | 日本(浜松市の大福寺・法林寺、京都の大徳寺・一休寺・天龍寺など) |
|---|---|
| 何から | 大豆・いった大麦の粉・塩(しょうが・山椒の皮を加える物も) |
| 寝かせる時間 | 麹づくりに数日。塩水に、夏は80〜90日、冬は150日 |
| 働く微生物 | ニホンコウジカビ、クモノスカビの仲間など。乳酸菌や酵母も |
| 納豆との違い | カビの麹と塩で作る。糸を引かず、味は味噌に近い |
食べ方: ごはんにのせて、熱いお茶をかける
1976年の伊藤(Hiroshi Ito)の論文(日本醸造協会誌)は、浜納豆の食べ方を次のように書いています(Soyinfo Center の要約)。
- 大徳寺納豆と同じように、小さな茶わんの熱いごはんにのせ、熱い緑茶をかけてお茶漬けにする
- 酒のさかなにする
- 抹茶のお茶うけとして、お菓子の代わりに出す
- 弁当で、しょうゆで煮た昆布のように、ごはんのおともにする
- 禅寺の料理では昔から、細かく刻んで大根おろしと混ぜ、酢をかけて食べる
- 麻婆豆腐に使う
同じ論文は、浜納豆を味付けと、たんぱく質のもとの両方に使う、と書いています。
作り方の記録
同じ論文は、浜松の山屋と法林寺のやり方、大福寺のやり方を図で示しています。大福寺は種麹を加えません。古い麹室や木の麹ぶた、わらのむしろに、カビの胞子がしみこんでいるからです。
- 大豆を水につけ、水を切って4〜5時間置き、4〜5時間蒸して、蒸し器の中で一晩置く。大福寺では、水につけずに煮立った湯で7〜8分ゆで、深さ2mの蒸し器で7〜8時間蒸し、翌朝まで置く。豆をつぶしたり皮をむいたりしないように気をつける。
- 厚いわらのむしろに広げ、水を切って日に干し、いった大麦の粉をまぶす(工場では種麹を混ぜた粉を使う)。
- 一晩わらのむしろをかけ、翌日、木の麹ぶたに移して麹室で麹にする。熱を持ちすぎないよう、途中で3回、手で麹をほぐす。大福寺の麹室は20〜25℃で、夏なら3日で麹ができる。
- 工場では、麹を冬は4〜5時間、夏は2時間、日に干す。
- 桶に分け、煮た湯に塩を溶かした塩水を注ぎ、中身の2倍の重さの押しぶたをのせて、夏は80〜90日、冬は150日寝かせる。大福寺では、塩水の代わりに生のしょうゆを使う。寺では、山椒の皮を桶の底に敷く。
- 塩水を切って豆をすくい出し、むしろに広げて日に干し、ふるって小さなかけらを除く。しょうゆのもろみに漬けたしょうがや、山椒を加える種類もある。
納豆と比べると
伊藤の論文は、浜納豆を、名前と大豆の発酵食品であること以外はふつうの納豆と関係がなく、味も作り方も豆の味噌に近い、と書いています。ただ味噌と違って、豆は元の形のまま残ります。論文によると、浜納豆の麹からは、ニホンコウジカビのほかに、クモノスカビの仲間(Rhizopus)や黒カビ(A. niger)が見つかります。大福寺のように低い温度で長く麹を作ると、豆の表面にクモノスカビが多くなり、カビの酵素の働きが弱いので、豆が崩れずに残るそうです。カビのほかに、乳酸菌と酵母もすべての浜納豆にいました。
記録に残る、寺と浜納豆
伊藤の論文によると、浜納豆が知られるようになったのは、1400年代に大福寺の僧が足利の将軍に献上したのが始まりで、戦国時代には今川・豊臣・徳川の家にも献上されました。徳川家康は浜松城に入ると、浜納豆を兵の食料にし、毎年、寺の僧から将軍へ贈られて、正月の供え物に使われたそうです。京都の大徳寺納豆・一休寺納豆・天龍寺納豆、浜松の大福寺と法林寺の浜納豆は、今も作られている、とも書いています。
日本語版ウィキペディアの「納豆」の項目は、納豆という言葉が確かめられるいちばん古い書物を、11世紀半ばの藤原明衡『新猿楽記』とし、そこに出てくる「塩辛納豆」が糸引き納豆と塩辛納豆のどちらを指すかは、読み方に諸説ある、と書いています。
出典
- Shurtleff W, Aoyagi A (2012) History of Natto and Its Relatives. Soyinfo Center.(No.670〜672 Ito Hiroshi (1976)「浜納豆」日本醸造協会誌 71(3):173-76 の要約) https://www.soyinfocenter.com/books/151
- Wikipedia「納豆」 https://ja.wikipedia.org/wiki/納豆
このページは2026年10月15日に出典を開いて書きました。料理・製法は記録の紹介です。
