糸の正体
納豆のねばねばは、主にγ-ポリグルタミン酸(γ-PGA)と、果糖がつながったレバンという物質からできています。茨城県工業技術センターの久保雄司らは2018年に、糸を引かせているのは特にγ-PGAだと書いています。崇城大学は、γ-PGAを、アミノ酸のグルタミン酸がつながった大きな物質だと説明しています。
混ぜる回数
よく知られているのは、北大路魯山人の『魯山人味道』の「納豆の拵え方」です。糸を出せば出すほど納豆はうまくなるので、手間を惜しまずよく練り返すべきだ、という内容で、回数は書かれていません。
タカラトミーアーツの「魯山人納豆鉢」は、この教えをもとに混ぜる回数を試し、「424回」を導いたと紹介されています(GIGAZINE、2014年)。奈良の小金屋食品の代表は、20回以上混ぜて、たっぷり糸を引かせると、素材のおいしさが増すと話しています。
三重県伊賀市が公開している学生の発表資料では、混ぜる回数を50回から250回まで変えて、うま味のもとのグルタミン酸の濃さを測り、150〜200回あたりがいちばん濃かったと書いています。1回ずつの小さな実験で、まとめは「混ぜ続けてもおいしくはならない」でした。
糸の少ない納豆
- 豆乃香(まめのか) — 茨城県工業技術センターが、ねばねばを作る量の少ない納豆菌を選び出して作った納豆です。ふつうの納豆と比べて、ねばねばの量も粘りの強さも大きく減りました(2018年の報告)。
- 美納豆のデリ — ミツカンが、新しく見つけた納豆菌で作った、においも糸引きもない発酵食品だと紹介されています(ねとらぼ、2021年)。
逆に、粘りを守る研究もあります。崇城大学は2025年、マルキン食品との共同研究で、納豆菌に自然に起きる変化で粘りが落ちることは経験として知られていたが、そのしくみを調べた、と発表しています。
糸が引かなくなる原因: ファージ
工場の納豆が糸を引かなくなる原因の1つに、納豆菌ファージがあります。納豆菌にとりつくウイルスで、ファージが作る酵素が納豆の糸を切ってしまいます。茨城県工業技術センターは、ファージは人には害がなく、ファージの入った納豆を食べて体をこわしたという報告は見当たらないと書いています。
糸を引かない納豆からファージが見つかったのは1960年代です。農業生物資源研究所の永井利郎は2011年、工場によっては床や排水溝からファージが見つかることもあり、根絶は今も難しいと書いています。茨城県は、ファージに強い納豆菌の開発にも取り組みました。
世界の仲間の糸
世界の仲間にも糸を引く物は多くあります。インド北東部ミゾラム州のベカンからは、調べた中でγ-PGAを最も多く作る株の1つが見つかっています。ネパール東部などのキネマは、キネマを出す日本の店を取材した記事で、日本の納豆より粘りは弱く、香りは強いと書かれています。
出典
- 久保雄司・中川力夫「糸引きの少ない納豆『豆乃香』の開発」Synthesiology 11巻1号(産業技術総合研究所、2018年) https://www.aist.go.jp/pdf/aist_j/synthesiology/vol11_01/vol11_01_p01_p11.pdf
- 農研機構 食品総合研究所「納豆の粘質物の生産と分解を制御する機構」(2003年度 研究成果情報) https://www.naro.go.jp/project/results/files/nfri03-15.pdf
- 崇城大学 プレスリリース「納豆の『粘り』を守れ!」2025年5月19日 https://www.sojo-u.ac.jp/news/press/2025/250519_006353.html
- テレビ東京プラス「納豆は1時間混ぜると超美味い? 北大路魯山人になりきって…」(2020年) https://www.tv-tokyo.co.jp/plus/gourmet/entry/2020/021029.html
- GIGAZINE「魯山人納豆鉢」2014年1月22日 https://www.gigazine.net/news/20140122-rosanjin-nattou/
- 京阪ホールディングス「大阪人にも愛されるわら包みの絶品納豆」 https://www.keihan.co.jp/navi/famous/famous125.html
- 伊賀市 公開資料「納豆の追究」 https://www.city.iga.lg.jp/cmsfiles/contents/0000010/10515/4_nattounotuikyuu.pdf
- ねとらぼ「仕事中、スマートに『納豆』を食べる時代へ?」2021年5月25日 https://nlab.itmedia.co.jp/cont/articles/3320270/
- 茨城県工業技術センター「納豆菌ファージ感染耐性納豆菌の開発」(平成24年度) https://www.itic.pref.ibaraki.jp/publication/doc/result/h24/H24_3-04.pdf
- 茨城県工業技術センター「納豆菌ファージに感染しない納豆菌の開発」(平成25年度) https://www.itic.pref.ibaraki.jp/publication/doc/result/h25/H25_3-07.pdf
- 茨城県工業技術センター「工場内の納豆菌ファージ検査」(平成30年度) https://www.itic.pref.ibaraki.jp/publication/doc/result/h30/H30_3-11.pdf
- 永井利郎「納豆菌バクテリオファージのタイピングと特性調査」微生物遺伝資源探索収集調査報告 24(2011年) https://www.gene.affrc.go.jp/dl/pdf/publications/micro-exp_2011(24)_p99.pdf
このページは、上の出典を開いて確かめ、2026年10月15日に書きました。混ぜる回数の数字は、それぞれの出典が書いた物です。
