キネマを一言でいうと
ネパール東部から、インドのシッキム・ダージリン、ブータンにかけて食べられている、塩を入れない大豆の発酵食品です。日本の納豆と同じ枯草菌(Bacillus subtilis)の仲間が主役で、糸も引きます。いちばんの違いは食べ方です。ご飯にのせるより、カレーやスープの具にして火を通して食べます。
| どこで | ネパール東部・インド(シッキム、ダージリン)・ブータン |
|---|---|
| 何から | 大豆(塩は入れない) |
| 主な菌 | Bacillus subtilis ほか |
| 食べ方 | カレー・スープにしてご飯と |
| 日本では | 東京・阿佐谷の店で出ていた記録あり(2022年) |
食べ方: 干したキネマのスープ(キネマ・コ・ジョル)
リンブーの家庭料理として、ネパールの食のサイト The Gundruk が2015年に載せた作り方です(2〜3人分)。干したキネマを使い、戻し汁を捨てずにスープにするのがこつです。
材料
- 干したキネマ 1カップ
- 玉ねぎ 中1個
- にんにく 1〜2かけ
- トマト 中3〜4個
- ターメリック 小さじ1
- 油 大さじ2〜3
- 香菜(コリアンダーの葉)・塩
作り方
- キネマを1回すすぎ、水2カップに10〜15分つける
- キネマをざるに上げる。つけた水は取っておく
- 油で薄切りの玉ねぎとにんにくを、うすく色づくまで炒める
- ターメリックとキネマを入れて2〜3分炒める
- 刻んだトマトと塩を入れて3〜4分煮る
- 取っておいたつけ水を入れて6〜8分煮る
- 香菜をのせ、炊いたご飯と熱いうちに
日本で食べられた記録
散歩の情報サイト「さんたつ」の2022年11月23日の記事(取材・文 室橋裕和)に、東京・阿佐谷のネパール料理店「パティバラ」(杉並区阿佐谷南3-10-8)が出てきます。キネマのスープが付く「納豆汁定食ことネパール家庭料理セット」(記事の時点で1050円)です。
「大豆を茹(ゆ)でて潰して、茹で汁を加えるだけなんです」と店主のアニタさん。あとは自然発酵を2、3日。
記事によると、日本の納豆より粘りは弱く、香りは強い。ショウガ・ニンニク・クミン・トマト・唐辛子を足したスープで、味は「ほのかにスパイシーな納豆汁」。店主は、日本でキネマを出している店をほかに知らないと話しています。今も出しているかは確かめていません。行く前にお店に確かめてください。
作り方の記録: 灰を混ぜて、葉で包んで一晩
1985年につくば市で開かれた「無塩発酵大豆のアジアシンポジウム」で、ネパールの中央食品研究所の Tika Karki は、キネマの昔ながらの作り方を報告しました(記録集は1986年)。
- 大豆を洗って一晩水に浸し、柔らかくなるまで煮る
- 軽くたたいて割り、0.5%ほどの灰を手でよく混ぜる
- バナナの葉をかぶせた竹かごに入れ、約25℃で一晩発酵させる
- 3日ほど天日で干すと、半年ほど保存できる干しキネマになる
Karki は、キネマを作るのはネパールの最も東の地域だけで、主な菌は枯草菌、日本の納豆より粘りが弱く少し酸味がある、と書いています。同じシンポジウムでは、民族学者の中尾佐助が、1962年に東ネパールで初めてキネマに出会ったことを話しています。
糸の正体と「よいキネマ」の条件
2016年、シッキム大学の Chettri・Bhutia・Tamang の3人が、シッキムの市場で買った10のキネマから菌を取り出して調べました。取り出したのは枯草菌の仲間(Bacillus)が39株、乳酸菌が25株です。
One of the criteria for good quality of kinema is high stickiness of the product preferred by consumers.
(よいキネマの条件の1つは、食べる人が好む、強い粘りである)
株ごとに糸の長さを測ると、1cmから23cmまで開きがありました。糸のもとになるポリグルタミン酸を多く作ったのは B. subtilis と B. licheniformis の株です。乳酸菌は糸を作らず、反対に糸を分解していました。キネマの粘りは、枯草菌の仲間が作っていることになります。
中にいる菌は、国によって顔ぶれが違う
2022年には、同じシッキム大学の Kharnaior と Tamang が、インド・ネパール・ブータンで集めた天日干しのキネマ18点を、遺伝子でまとめて調べました。
- いちばん多いのは B. subtilis。続いて B. glycinifermentans、B. cereus、Brevibacillus borstelensis、B. licheniformis、B. thermoamylovorans。
- インドとネパールのキネマは B. subtilis が多く、ブータンのキネマは B. cereus と Brevibacillus borstelensis がはっきり多かった。
同じ「キネマ」という名前でも、作る国によって中の菌が違うということです。論文は、体によいと報告のある物質が見つかったと書く一方で、遺伝子から予測した働きは「仮説(hypothetical claim)」だとも書いています。このサイトでは、体に効くとは書きません。
本では
本『世界の納豆アトラス』では、ヒマラヤの2種の1番目に置いています。
出典
- Chettri R, Bhutia MO, Tamang JP (2016) Poly-γ-Glutamic Acid (PGA)-Producing Bacillus Species Isolated from Kinema, Indian Fermented Soybean Food. Frontiers in Microbiology 7:971. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4914496/
- Kharnaior P, Tamang JP (2022) Metagenomic-Metabolomic Mining of Kinema, a Naturally Fermented Soybean Food of the Eastern Himalayas. Frontiers in Microbiology 13:868383. https://www.frontiersin.org/journals/microbiology/articles/10.3389/fmicb.2022.868383/full
- The Gundruk「Kinema ko Jhol (Ethnic Cuisine of Limbu)」2015年11月22日 https://www.thegundruk.com/?p=699
- さんたつ「阿佐ケ谷さんぽ=ネパール旅行?商店街に溶け込む南アジアの人々」2022年11月23日(取材・文 室橋裕和) https://san-tatsu.jp/articles/207195/
- Shurtleff W, Aoyagi A (2012) History of Natto and Its Relatives. Soyinfo Center.(No.1169 Karki T 1986 "Microbiology of kinema"、No.1172 Nakao S 1986 の要約) https://www.soyinfocenter.com/books/151
このページは2026年10月14〜15日に出典を開いて書きました。料理・製法は記録の紹介です。
