リビイッパを一言でいうと
ブータンで作られてきた、塩を入れない発酵大豆です。ネパールやインドのキネマと同じ仲間で、日本語の資料では、ブータン東部の呼び名を「リビイッパ」(リビは大豆のこと)と書いています。英語の資料には、ブータンの国語ゾンカ語で大豆を「lebe」と呼び、発酵させた物を「Lebe Yhitpa」と書いた記録があります。書き方は資料によって揺れています。
| どこで | ブータン(東部・南部) |
|---|---|
| 何から | 大豆(インゲン豆で作る記録もある) |
| 主な菌 | Bacillus 属。ブータンの物は B. cereus などが多いという研究がある |
| 食べ方 | カレー・唐辛子のペーストに入れる |
| 仲間 | キネマ |
食べ方: カレーと、唐辛子のペーストに
2008年の本『Bhutan: Ways of Knowing』の「ブータンの作物」の章(Karma Lhendup)は、ブータンでの大豆とインゲン豆のいちばん大事な使い道を、発酵させて「Lebe Yhitpa」にすることだと書いています。
The most important use of red kidney beans (orey) and soybeans (lebe) is processing them into Lebe Yhitpa by fermenting the half-boiled beans naturally in bamboo containers.
(インゲン豆と大豆のいちばん大事な使い道は、半分ほど煮た豆を竹の入れ物で自然に発酵させ、Lebe Yhitpa にすることである)
- においは強く、いろいろなカレーに使う
- 「アゼ(aezay)」にも入れる。アゼは粉唐辛子・チーズ・トマト・玉ねぎ・塩を混ぜた赤い唐辛子のペースト
- 本の筆者は、日本の納豆や韓国のチョングッチャンに似ていると書いている
唐辛子とチーズをよく使うブータンの料理の中に、発酵大豆が入っているということです。
1年以上もたせる納豆
日本語版ウィキペディアは、吉田よし子『マメな豆の話』(平凡社新書、2000年)を引いて、ブータン東部には、数か月、長い物では1年を超えて取っておく納豆があり、仕込みに麹やチーズを使って、調味料や家畜の薬にすると書いています。ネパールやインドのキネマが干して半年ほどもたせるのと比べても、長い保存です。
菌の研究: ブータンのキネマは顔ぶれが違う
2022年、インドのシッキム大学の Kharnaior と Tamang は、インド・ネパール・ブータンの天日干しのキネマ18点の菌を遺伝子で調べました。インドとネパールでは枯草菌(B. subtilis)が多かったのに対し、ブータンの物は B. cereus と Brevibacillus borstelensis がはっきり多いという結果でした。同じ仲間の食べ物でも、国によって中の菌が違います。
Tamang は2024年の総説で、キネマはネパール東部で生まれ、インドのダージリン・シッキムと、ブータンへ広がったと書いています。
記録: 酒の種と同じ種で作る
民族学者の中尾佐助は、1985年のつくばのシンポジウムで、ブータンでは発酵大豆を作る種に、酒を作る時の種と同じ物を使うという報告がある、と話しています。煮た穀物に種をつけて固体のまま発酵させるヒマラヤの酒造りと、無塩の発酵大豆は、似た文化から生まれたのだろう、という見立てです。
本では
本『世界の納豆アトラス』では、ヒマラヤの2種の2番目に置いています。
出典
- Shurtleff W, Aoyagi A (2012) History of Natto and Its Relatives. Soyinfo Center.(No.1882 Rennie F, Mason R eds. 2008 "Bhutan: Ways of Knowing" 第26章 Karma Lhendup、No.1172 Nakao S 1986 の要約) https://www.soyinfocenter.com/books/151
- ウィキペディア「納豆」(各地の納豆系食品・ネパール、ブータンの節。吉田よし子 2000『マメな豆の話』p.64, 76-77 を出典とする) https://ja.wikipedia.org/wiki/納豆
- Kharnaior P, Tamang JP (2022) Metagenomic-Metabolomic Mining of Kinema, a Naturally Fermented Soybean Food of the Eastern Himalayas. Frontiers in Microbiology 13:868383. https://www.frontiersin.org/journals/microbiology/articles/10.3389/fmicb.2022.868383/full
- Tamang JP (2024) Unveiling kinema: blending tradition and science in the Himalayan fermented soya delicacy. Journal of Ethnic Foods 11:29. https://link.springer.com/article/10.1186/s42779-024-00247-1
このページは2026年10月15日に出典を開いて書きました。料理・製法は記録の紹介です。
