東南アジア山地の5種を一言で
タイ北部・ミャンマー・ラオス・カンボジアと、インドとの国境の山地では、煮た大豆を葉で包んで数日寝かせ、そのあと干したり、塩水に漬けたりして使う発酵大豆が作られてきました。タイ語の「トゥアナオ」も、ビルマ語の「ペー・ボッ」も、「腐った豆」という意味です(英語版ウィキペディア「Thua nao」)。
| トゥアナオ | タイ北部・ミャンマーのシャン州。できたてを葉に包んで蒸すか焼く。薄い円盤にして干し、料理の味付けに |
|---|---|
| ペポッ | ミャンマー北部。おかずや揚げ物にする食べ方と、塩と唐辛子を混ぜて平たく干す食べ方の2つ |
| シュシュエ | ナガの人々の住む山地(タンクル語の呼び名)。牛肉や野菜と煮て汁にする。名前の出どころは日本の取材記だけ |
| クアヴ・シ | ラオス・タイのモンの人々。干した豆を唐辛子と塩でついて粗い粉にし、ご飯にかける |
| シエン | カンボジア。竹かごで2日寝かせ、そのあと塩水に5〜7日漬ける |
食べ方で並べると
- あぶって粉にし、トマトとひき肉のディップに — 米国の料理誌『Saveur』は、チェンマイ郊外の店の「ナムプリック・オン」の作り方を載せています。干したトゥアナオの円盤を、油をひかないフライパンであぶり、すり鉢で粉にしてから、唐辛子・にんにく・トマト・豚ひき肉と炒めます。
- 魚もえびも入っていない「ンガピ」 — 英語版ウィキペディアの「Ngapi」によると、ンガピはミャンマーの魚やえびの塩辛のことですが、シャン州の高地では大豆の発酵食品から作り、「ペー・ンガピ」と呼びます。
- 牛肉と野菜の汁に — 日本語版ウィキペディアは、高野秀行『謎のアジア納豆』を出典に、ナガの人々がシュシュエを牛肉や野菜と煮て汁にし、炒めたり揚げたりもすると書いています。
- ご飯にかける粉に — アメリカのモンの料理ブログで、シンディ・ハーさんは、ラオスで暮らしていた祖父母から受け継いだクアヴ・シの作り方を書いています(2018年)。干した豆を唐辛子とひとつまみの塩でつき、温かいご飯に添えます。1950年代から80年代、ラオスからタイにかけてのモンの人々の主なたんぱく源だった、と書いています。
- 揚げた魚としょうがに — カンボジアのタケオで民泊を営むリンダ・メアスさんは、カリッと揚げた魚に、塩漬けの発酵大豆としょうがを合わせる家庭料理を紹介しています(2023年)。
作り方: 寝かせたあとに、もう1つ手を加える
葉で包んで数日寝かせるところまでは、ほかの地域の仲間と同じです。違いは、そのあとの手間にあります。
- 干す — 1970年、タイの応用科学研究公社の Sundhagul ほかが記録したタイ北部の村の作り方では、煮た大豆をバナナの葉を敷いた竹かごで3〜4日寝かせ、塩と、ときにはにんにく・玉ねぎ・赤唐辛子をすり混ぜます。長く持たせる時は、直径2.5〜4cmほどの玉にして押しつぶし、薄い円盤にして天日で干すと、何か月も持ちます(Soyinfo Center の要約)。
- ついて丸め、干してから、もう一度つく — クアヴ・シ。ハーさんの家族のレシピは、昔は屋根の上で天日に干し、包む葉もバナナではなく野生の木の葉だったと書いています。今の台所に合わせて、オーブンで6〜7時間干す作り方です。
- 塩水に漬ける — シエン。浅い竹かごで2日寝かせ、すぐに塩水に移して5〜7日漬けます(2010年の Nagai と Tamang の章。Soyinfo Center の要約)。
トゥアナオでは、1970年の調査が発酵を起こす菌を枯草菌(Bacillus subtilis)と突き止めています。2023年の論文は、タイ北部の3つの言語の集団の発酵大豆を比べ、どれも Bacillus の仲間がいちばん多かった(細菌の49.5〜86.8%)と報告しました。
記録に残った順に
- 1970年 — タイ北部ランパーンとランプーンの村で、トゥアナオの作り方が記録された。魚の少ない村で、魚の発酵食品の代わりに作られていたことが、調べるきっかけだった。
- 1985年 — 米国の新聞『ウォール・ストリート・ジャーナル』の記事が、国立民族学博物館の吉田集而の「納豆の三角形」の説を紹介し、ビルマのシャン州の「ペボウ(Pe-bout)」も挙げた。Soyinfo Center は、これを Pe-bout に触れた最も古い文書としている。
- 2008年 — 日本の『納豆の科学』(木内幹・永井利郎・木村啓太郎 編)に「Pepok」の項が立った。
- 2010年 — 『Fermented Foods and Beverages of the World』の Nagai と Tamang の章に、シエンとペポッの作り方が書かれた(Soyinfo Center の要約)。
- 2018年 — ハーさんが、モンの家族のクアヴ・シの作り方をブログに書いた。
- 2020年 — 高野秀行『謎のアジア納豆』の新潮文庫版。シュシュエの名前の出どころは、今のところこの取材記だけ。
- 2021年 — マンダレー大学とシッキム大学の研究者が、ペポッの菌と食べ方をまとめた論文を出した。
出典
- Wikipedia "Thua nao" https://en.wikipedia.org/wiki/Thua_nao
- Wikipedia "Ngapi" https://en.wikipedia.org/wiki/Ngapi
- Saveur「Tomato and Ground-Pork Dip (Nam Phrik Ong)」(Austin Bush『The Food of Northern Thailand』より) https://www.saveur.com/tomato-and-ground-pork-dip-recipe/
- Bacterial Communities in Lanna Fermented Soybeans from Three Different Ethnolinguistic Groups in Northern Thailand (2023) Microorganisms. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10056180/
- Tamang JP ほか (2021) Shotgun sequence-based metataxonomic and predictive functional profiles of Pe poke, a naturally fermented soybean food of Myanmar. PLoS ONE 16(12):e0260777. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8682898/
- Cindy Her「Quav Si (Hmong Fermented Dried Soybeans)」C.Hawj Creations(2018年2月28日) https://chawjcreations.com/quav-si/
- Linda Meas(Meas Family Homestay)「Cambodia Recipe: Crispy fried fish with ginger and fermented soybeans (trey chien chuon)」Mitzie Mee(2023年2月2日) https://mitziemee.com/recipe-cambodian-fried-fish-ginger-fermented-soybeans/
- ウィキペディア「納豆」(ミャンマーの節。高野秀行『謎のアジア納豆』2020年を出典にした記述) https://ja.wikipedia.org/wiki/納豆
- Shurtleff W, Aoyagi A (2012) History of Natto and Its Relatives. Soyinfo Center.(Sundhagul ほか 1970、Martin 1985、田中 2008、Nagai & Tamang 2010 の要約) https://www.soyinfocenter.com/books/151
このページは、各納豆のページで開いて確かめた出典から、2026年10月15日にまとめました。料理・製法は記録の紹介です。

